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猪浦道夫の外国語とつきあう方法

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猪浦道夫(いのうら みちお)
翻訳家。横浜市立大学、東京外国語大学イタリア語学科卒業後、同大学大学院修士課程修了。イタリア政府留学生としてローマ大学留学。帰国後、ポリグロット外国語研究所を主宰。著書に『語学で身を立てる』『3語で話すスペイン語』などがある。DHCカルチャーセミナーの講師としても活躍中。

第26回 英語になったイタリア語

今回は、英単語化したイタリア語にはどのようなものがあるか考えてみましょう。

 外来語というものは、語彙を受け入れる側が、語彙の提供国の文化を吸収するときに一緒に入ってきやすいものです。英国がイタリアから伝統的に輸入してきたものは何といっても音楽や美術、料理などの文化的な遺産です。音楽用語は当たり前すぎますので、もう少し意外性のある語彙をご紹介しましょう。

1)マラリア malaria: mal- は「悪い」、aria は「空気」で、古くはアフリカの沼から出る悪い空気がこの病気の原因と考えられていたことからこのような名前がつきました。

2)テラコッタ terra cotta: terra は「地面、大地」、cotta は「焼く」という動詞 cuocereの過去分詞ですので、原義は「焼かれた土」。最近流行のデザート「パンナコッタ」の panna とは「生クリーム」のこと。

3)バレリーナ ballerina: イタリア語で「踊り」のことを ballo と言いますが、この単語からの派生。語末の -ina は可愛らしさを表わす縮小辞です。

4)オペラ opera: これは誰でも知っている単語でしょうが、もともとは opus(作品)というラテン語の格変化形から出たものですので、本来の意味は「仕事、作品」。opera lirica(叙情的な作品)から lirica が省略されたものなのです。

5)オカリナ ocarina: イタリア語で「ガチョウ」のことを oca と言い、-rina は縮小辞ですので、本来は「小さなガチョウ」。つまり、ガチョウの首をちょん切った形をしているので、そうネーミングされたのですね。英口語では sweet potato と呼ばれています。

6)スパゲッティ spaghetti: これもあまりにも有名な語ですが、イタリア語で spago とは「紐」のこと。-etti は古風な縮小辞ですので、その心は「可愛い紐型パスタ」。

7)フィナーレ finale: 英語の final にあたるイタリア語ですが、なぜかコンサートや催し物の最終演目(場面)をこう言うようになりました。

8)レガッタ regatta: イタリア語では regata と綴るのですが、英語のほうがイタリア語風の綴りになっている不思議な語です。原義は「争い、覇を争う戦い」でしたが、これがゴンドラ、次いでボートのレースに使われるようになりました。

9)ジレンマ dilemma: これはラテン語から直接入ったのかも知れませんが、ともかくイタリア語で「項目」を lemma と言い、di- は「2」を表わす接頭辞と言うことで「板挟み」の意味になりました。1980年代の米国では、経済的三重苦を意味する言葉として「トリレンマ」trilemma という語が盛んに使われていましたが、もともと「三段論法」を意味する立派な英単語でもあります。

10)タランチェラ tarantella: このカタカナ語を聞いた方はふつう「毒蜘蛛」のことを思い出すでしょうね。この単語の意味自体は、南イタリアのターラント(Taranto)地方で踊られる激しい踊りの名前です。それで、その踊りを踊るような症状になってしまう「舞踏病(タラント病)」のことを tarantism と言ったのですが、この病気は tarantula(イタリア語で tarantola)と呼ばれる蜘蛛に噛まれて発病すると信じられていたのです。ですから「毒蜘蛛」のことを言うのなら本当は「タラントゥラ(またはタラントラ)」と言わなければいけなかったのですね。以上、3つすべての単語は地名のターラントに由来するのは言うまでもありません。

11)パパラッチ paparazzi: 有名人を追いかけまわすフリーのカメラマンをこう呼びますが、フェリーニの「甘い生活」(ドルチェ・ヴィータ)に出て来るカメラマンの名(パパラッツォ)に由来します。従って、この単語は複数形。一人だったらパパラッツォというのですが、それを知らない日本のメディアでは「ひとりのパパラッチが…」と使っています。実は逆の現象があって、イタリア人は、語末が -o で終わる男性名詞の複数形は -i になると思っているものですから、日本の「柿」をみんな「カコ」と呼んでいるのです。私たち日本人が本当は「カキだよ」と教えると、イタリア人はそれは複数形だろと反論します。


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