
ヒント
今回も科学記事からの抜粋です。訳出上のポイントがどこにあるか見抜けたでしょうか。
今回の最大のポイントは、タイトルの訳と第1パラグラフの第2文です。特に、第2文を自然な日本語表現にまとめることが出来ればプロレベルといえます。
いずれの箇所も、真意をしっかり汲み取り、過不足のない日本語表現で訳出する必要があります。
まず、タイトルの訳は「本文を読んで判断する」が基本です。ただし、「迷ったら直訳」が原則です。ですから、直訳である「電子インクを作る」を暫定訳としておいて、確信があるときには意訳も検討するとよいでしょう。
また、「作る」(make)と同義の「開発する、製造する、生産する」などの訳語の可能性も、本文に合わせて判断します。さらに、それらを品詞転換した「仕組み、原理、動作、動作原理」などの訳語も検討します。
今回のタイトルの訳では、もう1つ大切なポイントがあります。〜ing形で始まる見出しの訳し方です。
「〜する」という直訳以外にも、名詞として訳したり、「〜する方法」(how to〜と同義)と訳したりすることがあります。これらを総合的に判断します。
もともとmakingに「仕組み、原理、動作、動作原理」という意味はありませんが、「製造」(make)するためには、その原理が必要であるのは明らかです。したがって、ここでは2つを正解としたいと思います。
タイトルの訳例
前者のほうが直訳に近い形です。後者はやや意訳です。いずれも本文の内容に合わせた訳例です。単に「作る、開発する、製造する」とするよりも、「作り方」とすると原理を示唆する感じがでます。たとえば、単に「製造」とすると、その背後にある原理や仕組みのニュアンスが薄れます。
以上のように、このタイトルは、いくつかの基本テクニックを組み合わせて判断するとよいでしょう。
次に第1パラグラフの第2文を検討しましょう。ここでのポイントはapplyとthe sameの組み合わせから真意を汲み取ることです。
まずは素直に直訳してみましょう。
直訳例
この訳でもかなり原文の意味は伝えていますが、やはり日本語として不自然で、かなり改良の余地がありそうです。
ここではapplyを「適用できる」とし、the sameを「同じ」と訳していますが、それぞれの単語の意味を具体的にイメージするのが大切です。
第一文の意味は「ビンに入った電子インク…見た目は普通のインクとまったく変わらない。」ですから、それに続くこの第二文の重要情報をきちんと読み取ったうえで、具体的な言葉に置き換えて分かりやすい日本語表現に改良したいところです。
以上を考慮して、訳文をリライトしたものが次の訳文です。
【第2文の改良訳】
改良点を赤字で強調してみました。
この改良点のポイントは、applyを「印刷できる」と具体的に訳し、さらにthe same≒all(どんなものでも)またはany(どこでも)というニュアンスを読み取って訳したことです。
インクはもともと印刷するものですから、apply(適用する、応用する)よりも「印刷する」のほうが読み手にとって具体的にイメージしやすいのは明らかです。そのため、前半と後半であえて「印刷する」という言葉を繰り返しています。
このように、基本動詞は「何を目的語としているか」によって日本語の意味が変化します。そのため、機械的に逐語訳にするのではなく、文脈や前後関係をしっかり読んでそのつど訳し分ける必要があります。
やや高度な判断が必要になりますが、the same≒all(どんなものでも)またはany(どこでも)というニュアンスを読み取ることも、翻訳者による文脈判断です。
この「基本用語を訳し分ける」というテクニックは、実務翻訳のあらゆる場面で多用される基本中の基本のテクニックですので、ぜひマスターしてください。
訳例
ちなみに電子インクに関する印刷技術は日本が世界最高水準です。その応用範囲は無限ともいえます。
たとえば、半導体のプリント基板に印刷するパターン、コンピュータ画面、衣料品や日用品、その他の精密機器、さらには人体の皮膚や髪の毛の色を変えることすら可能です。
今後こうした技術がさまざまな製品に応用されると、まったく新しい市場が創出される可能性があります。
科学技術世界は想像を超えるスピードで進化していますので、実務翻訳者はそうした先端技術に触れる機会が一般の人よりも多くあります。それもまた実務翻訳の醍醐味といえるでしょう。
以下、次回の翻訳課題です。
ヒント
科学ニュース記事の抜粋です。少し大きい文字が記事の見出し、その下が記事本文です。
ポイントをしっかり見抜いて訳してください。
それでは、次回のこのコーナーでまたお会いしましょう!