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実践・実務翻訳のコツ(第12回)−中上級へチャレンジ!

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執筆:佐藤洋一(さとう よういち)
佐藤翻訳事務所代表
東京都出身。国際基督教大学教養学部理学科卒業後、東京工業大学大学院修士課程を修了。
在学中から、論文などの翻訳を始め、フェロー・アカデミーで学んだ後、(株)日本テックを経て、フリーの実務翻訳者として独立。翻訳学校講師も勤めている。『はじめての理系英語リーディング』(アルク)や『詳細 技術英文大全』(オーム社)など、著書・訳書も多数。
Q [英和課題] 以下の英文を「である」「だ」調で翻訳してください。

Evidence of ancient reversals of Earth’s magnetic field in soil at two archaeological sites indicates that hand axes date to 900,000 years ago in one location and to 760,000 years ago in the other, Scott and Gibert report in the Sept. 3 Nature. Until now, most researchers thought that hand axes unearthed at these sites were made between 500,000 and 200,000 years ago.


First tool
Researchers say that a stone hand ax, shown here from both sides, that was previously found in a Spanish rock shelter dates to 900,000 years ago, making it the oldest such implement in Europe.

ヒント


前回の課題の続きの英文。水色の文字が図版の説明文。

今回も科学ニュース記事の抜粋です。通常の書体が記事本文、水色の文字が図版の説明文です。

訳出上のポイントはたったの1箇所(1ワード)です。そのポイントがどこにあるか見抜けたでしょうか。

第1文はかなり長い英文なので、簡潔な日本語表現にまとめることが大切です。まずは第1文と第2文を直訳してみましょう。

本文の直訳例


2つの考古学発掘現場の土壌中の地球の磁場の古代の逆転の証拠は、一方の現場の握斧は90万年前のものであり、他の現場のものは76万年前であることを示している、とScott と Gibertは『Nature』9月3日号で報告する。今まで、ほとんどの研究者は、これらの現場で出土した握斧は50万年前から20万年前の間に作られたと考えてきた。

前半の訳が非常に理解しにくい日本語表現となっています。

ここでは「Evidence of ancient reversals of Earth’s magnetic field in soil at two archaeological sites」という非常に長い無生物主語の構文となっています。この部分を重点的に整理する必要がありそうです。

また、最初の文の時制は現在形ですが、日本語では現在形にこだわらずに訳すとよいでしょう。訳文の時制は文脈に応じて判断します。訳文の時制は必ずしも英文に厳密に一致させる必要はありません。

以下に改良訳を示します。

本分の改良訳


「2箇所の考古学発掘現場の土壌中において、地球の磁場が古代に逆転したという痕跡が見られた。これらの痕跡は、一方の発掘現場の握斧は90万年前のものであり、他方の発掘現場のものは76万年前であることを示している」とScott と Gibertは『Nature』(9月3日号)で報告した。これまで多くの研究者は、これらの発掘現場で出土した握斧は50万年前から20万年前の間に作られたと考えてきた。

いかがでしょうか。このように前半部分を1つの意味のまとまりとしてとらえ、1文として区切って訳すと簡潔な表現になります。

さらに「」を利用して、二人の研究者による報告であることを明確にしています。

次に図版の説明文の直訳例を示します。

図版の説明文の直訳例


最初の道具
研究者たちによると、スペインの岩窟で発見された石の握斧(両側をここで示す)の年代は90万年前までにさかのぼり、それはヨーロッパにおける最も古い道具である、という。

この訳でもそれなりに原文の意味は伝えていますが、日本語として不自然であるだけでなく、かなり重大な情報を見落としています。

ここでは「Researchers」(研究者たち)の解釈に注目してください。ここが今回のポイントです。

文を読めば分かるのですが、具体的にはScott と Gibertという二人の研究者です。彼らがNature誌で発表した内容をこの図版で紹介しているのです。

単に「研究者たち」では、本文との関係があいまいになってしまいます。

以上を考慮して、上記の直訳を全面的にリライトしたものが次の訳文です。

図版の説明文の改良訳


最初の道具
スペインの岩窟で発見された石の握斧(両面を撮影)。
2人の研究者によると90万年前のものであり、この種の石器としてはヨーロッパ最古。

この改良点のポイントは、見出しらしい体言止めを利用していることです。これにより、図版の意味が読者に明確に伝わります。

また、図版は1つの石斧を両面から撮影したものですので「両面を撮影」のように言葉を補っています。このようにわずかに言葉を補うことによって、読者の理解がアップします。

訳例


「2箇所の考古学発掘現場の土壌中において、地球の磁場が古代に逆転したという痕跡が見られた。これらの痕跡は、一方の発掘現場の握斧は90万年前のものであり、他方の発掘現場のものは76万年前であることを示している」とScott と Gibertは『Nature』(9月3日号)で報告した。これまで多くの研究者は、これらの発掘現場で出土した握斧は50万年前から20万年前の間に作られたと考えてきた。

最初の道具
スペインの岩窟で発見された石の握斧(両面を撮影)。
2人の研究者によると90万年前のものであり、この種の石器としてはヨーロッパ最古。

以上まとめとして、今回のポイントを以下に示します。

  • 1) タイトルなどの訳と同様に、図版の解説などで体言止めを利用できることに気づくこと。
  • 2) 最大のポイントは、図版の説明文のResearchersがScott と Gibertのことであり、本文との関連を正しく読み取ること。
  • 3) 訳文中にわずかに言葉を補うことによって、読者の理解度が高まる工夫をすること。

以下、次回の翻訳課題です。

Q [英和課題] 以下の英文を「である」「だ」調で翻訳してください。

Carbon isn’t found only in living matter. It’s also found inside the Earth’s mantle, the layer between the crust and the core, and in seawater, air, rocks and soil.
Soil is a great place for carbon. There, it may remain locked up for hundreds, thousands or even millions of years, adding nutrients needed for growing food. Keeping carbon locked up in the soil also provides a way to keep it out of the atmosphere.

ヒント


環境科学の記事の一部。水色の文字に注意して訳す。

今回はノーヒントです。ポイントをしっかり見抜いてください。

それでは、次回のこのコーナーでまたお会いしましょう!


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