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実践・実務翻訳のコツ(第23回)−中上級へチャレンジ!

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執筆:佐藤洋一(さとう よういち)
佐藤翻訳事務所代表
東京都出身。国際基督教大学教養学部理学科卒業後、東京工業大学大学院修士課程を修了。
在学中から、論文などの翻訳を始め、翻訳会社を経て、フリーの実務翻訳者として独立。長年にわたり翻訳学校講師も勤めている。『はじめての理系英語リーディング』(アルク)や『詳解 技術英文大全』『科学技術英語論文 英借文用例辞典』(オーム社)など、著書・訳書も多数。
Q [前回の課題] 以下の英文を「である」「だ」調で翻訳してください。

In the new study, when rats tasted fats, their bodies activated molecules called endocannabinoids. In both humans and rats, these molecules help tell the brain when it’s time to eat.

Previous studies have shown that when endocannabinoids are active, an animal will eat … and eat, and eat and eat. When endocannabinoids are blocked, or inactive, the eating stops.


ヒント


endocannabinoids「内在性カンナビノイド」

今回の記事は、前々回の課題の続きとなっています。そこで前回ご紹介した訳例を見てみましょう。

Q [前回の訳例]

脂肪分が過食を助長する
脂肪分がラットの「イート・モア(もっと食べなさい)」ボタンを押すことを科学者が発見

最近の研究により、(1)脂肪分の多い食品がどうして人を魅き付けるか解明されつつある。最近行われた実験では、過食にかかわる分子についてより詳しく調べるために、ネズミに脂肪分の多いエサを与えた。研究者たちは、脂肪が脳や身体の各部位に送ると考えられる(2)メッセージをとらえようとしたのだ。これらのメッセージを伝達する細胞を研究することにより、(3)人の減量に役立つ新薬を開発することができるかもしれない。


これが今回の課題の直前のパラグラフとなります。

今回の英文和訳のポイントは、直前のパラグラフとの関係を正しく読み取り、その背後にある論理の流れをきちんと意識して訳すことです。

具体的には、上記の下線を引いた3箇所の部分と、今回の課題のパラグラフとの関係を明確に意識することです。

(1)脂肪分の多い食品がどうして人を魅き付けるか

(2)(脂肪が脳や身体の各部位に送ると考えられる)メッセージ

(3)人の減量に役立つ新薬

以下、個々の英文について、訳出上のポイントを解説します。

【原文】の赤字部分が訳出上のポイントで、【訳例】の赤字部分がそれに対応する箇所です。【訳出上のポイント】の太字部分が訳出上のポイントを上手に処理するためのテクニックです。

(第1文)


【原文】

In the new study, when rats tasted fats, their bodies activated molecules called endocannabinoids.


【訳例】

この研究によると、ラットが脂肪を摂取すると、ラットの体内で内在性カンナビノイドという分子が活性化された。


【訳出上のポイント】

まず、冒頭のIn the new studyは、前回の課題の第1文に出てくるA new studyであることが明らかですので、わざわざここで「その新しい研究では」とせず、直前のパラグラフの内容を受けて「この研究によると」としてもよいでしょう。

このように、個々の逐語訳にこだわらず、パラグラフ間の関係を汲み取って情報を伝えるというテクニックもぜひマスターしたいところです。

また、their bodies activated〜の部分を直訳すると「彼らの身体は〜を活性化した」となりますが、ここでは具体的に「<ラットの体内で〜が活性化された」としています。

こうした小さな工夫により、読者に余分な思考を要求せず、状況が明確にイメージできる訳文となります。

(第2文)


【原文】

In both humans and rats, these molecules help tell the brain when it’s time to eat.

【訳例】

人間でもラットでも、これらの分子は「空腹」を脳に伝達する役割を担っている。


【訳出上のポイント】

ポイントはwhen it’s time to eatの処理です。このような関係詞節の表現は「名詞句」の形で訳すとすっきりまとまります。ここでは、「今が(ものを)食べる時だ」という関係詞節を「空腹」という簡単な名詞で処理しています。

(第3文)


【原文】

Previous studies have shown that when endocannabinoids are active, an animal will eat … and eat, and eat and eat.

【訳例】

これまでの研究により、内在性カンナビノイドが活性化されると、動物は際限なく食べ続けることが判明している。

【訳出上のポイント】

will eat … and eat, and eat and eatは面白い表現です。このあたりは、翻訳者の腕の見せ所といえます。訳例では「際限なく食べ続ける」としていますが、ほかにもさまざまな表現のバリエーションがあると思います。

(第4文)


【原文】

When endocannabinoids are blocked, or inactive,the eating stops.

【訳例】

内在性カンナビノイドが遮断されるか、あるいは不活性化されると、そうした食欲は止まる。

【訳出上のポイント】

the eatingは直前の文を受けたものです。ここも表現のバリエーションがあると思いますが、意味としては「そうした食欲」とすれば具体的なイメージが読者に伝わると思います。ちなみにこの文は、前回の課題の最後の文に登場した「人の減量に役立つ新薬」を開発する方法を示唆しています。

訳例


この研究によると、ラットが脂肪を摂取すると、ラットの体内で内在性カンナビノイドという分子が活性化された。人間でもラットでも、これらの分子は「空腹」を脳に伝達する役割を担っている。

これまでの研究により、内在性カンナビノイドが活性化されると、動物は際限なく食べ続けることが判明している。内在性カンナビノイドが遮断されるか、あるいは不活性化されると、そうした食欲は止まる。

ここであらためて、前回の課題のパラグラフと今回の課題の関係をまとめてみましょう。


(1)脂肪分の多い食品がどうして人を魅き付けるか
→ラットの実験から、脂肪を摂取すると「空腹感」が脳に伝達され食欲が増す。

(2)(脂肪が脳や身体の各部位に送ると考えられる)メッセージ
→「内在性カンナビノイド」という物質を通して「空腹感」が伝えられる。

(3)人の減量に役立つ新薬
→内在性カンナビノイドを遮断あるいは不活性化する物質を見つける。

(1)は、脂肪分の多い食品が人を魅き付けるメカニズムを示しています。「脂肪摂取=食欲増進」という一種の学習によるものと考えられます。

(2)の「内在性カンナビノイド」という物質は、ラットが脂肪を摂取したときに、脳に「空腹感」を伝える信号の役割を果たしていると考えられます。

(3)は、これまでの論理の流れを考えれば明らかです。

以上のように、パラグラフ間の関係を正しく読み取り、その背後にある論理の流れをきちんと理解して訳すことが大切です。

以下、次回の翻訳課題です。

Q [英和課題] 以下の英文を「である」「だ」調で翻訳してください。

Veggies: A radiation shield
Certain crunchy veggies in the broccoli family protect rats’ healthy cells from killer radiation

Radiation can help or harm ― and sometimes do both at the same time. When used as a medical treatment, radiation kills cancer cells. But any nearby healthy cells hit by the radiation also will die or suffer lasting harm.

Scientists have identified a chemical that might help with these repairs. It’s called DIM, and it develops in the body after eating a diet rich in broccoli and related vegetables, such as cauliflower, Brussels sprouts and kale.


ヒント


放射線の害から身体を守る食材を紹介した科学記事。

それでは、次回のこのコーナーでまたお会いしましょう!

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