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実践・実務翻訳のコツ(第31回)−中上級へチャレンジ!

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執筆:佐藤洋一(さとう よういち)
佐藤翻訳事務所代表
東京都出身。国際基督教大学教養学部理学科卒業後、東京工業大学大学院修士課程を修了。
在学中から、論文などの翻訳を始め、翻訳会社を経て、フリーの実務翻訳者として独立。長年にわたり翻訳学校講師も勤めている。『はじめての理系英語リーディング』(アルク)や『詳解 技術英文大全』『科学技術英語論文 英借文用例辞典』(オーム社)など、著書・訳書も多数。
Q [前回の課題] 以下の英文を「ですます」調で翻訳してください。

Investment Objective

The company seeks to achieve a rate of return in the range of forty to fifty percent (40%-50%) per month through one-day or short-term investments.

Investment Strategy

To achieve the above investment objective, the company shall identify investment opportunities in Nikkei 225 Futures, and our professional staff shall exercise their expertise and experience to realize capital gains.


今回の課題は、ある外資系投資運用会社の業務案内の冒頭部分からの抜粋です。今回の重要ポイントは「訳語の選択」です。また、以下の参考用語が提示されていますので、これらの訳語が適切かどうかも併せて検討する必要があります。

<参考用語>
investment(投資)、 a rate of return(収益率)、 investment opportunity(投資機会)、 Nikkei 225 Futures(日経平均先物)、 capital gains(キャピタルゲイン)

以下、個々の英文について、訳出上のポイントを解説します。文単位で解説します。

【原文】の赤字部分が訳出上のポイントで、【訳例】の赤字部分がそれに対応する箇所です。【訳出上のポイント】の太字部分が訳出上のポイントを上手に処理するためのテクニックです。


(1番目の見出し)


【原文】

Investment Objective

【訳例】

投資の目標

【訳出上のポイント】

ここでのポイントは日本語の訳語選択です。特にObjectiveの訳し方です。通常、objectiveは「目的」、「目標」のように訳しますが、日本語の「目的」と「目標」の意味を以下のようにしっかり区別する必要があります。

目的」とは、最終的に実現したい結果や到達点のこと。
「目標」とは、最終的な「目的」を実現する途中で目指す目印のこと。

「目標」の「標」は「標識」(ひょうしき)や「道標」(みちしるべ)などの熟語に使われます。つまり「目標」は「目的地」に到達するまでの「目印」のようなものといえます。これらに基づき、「目的」と「目標」のどちらが適切かを判断します。

こういうタイトルを訳すときは、必ず直後の本文を読んでから訳すことが大切です。そこで直後の文を読むと「月あたり40〜50%の収益率を目指す」とあります。これは明らかに目先の目標であり、最終的な目的ではありません。

「月あたり40%〜50%の収益率を目指す」のはあくまでも目先の1か月の目標であり、投資運用会社の使命である「顧客から預かった資産を大きく増やす」という最終的な目的とは異なるからです。

以上により、ここでは「目標」(〇)が正解で、「目的」(×)は不適切ということになります。

ただし例外があります。顧客から訳語の指定があった場合です。多くの企業では翻訳資産を再利用するために、一度訳した訳文をSDL Tradosなどの翻訳支援ソフトウェア上にデータベースとして蓄積しています。もし過去の訳文においてInvestment Objectiveが「投資目的」と訳されていたら、訳語の統一という観点からは「投資目的」が正解となります。

また、メーカーによってはobjectiveを「目的」、goalを「目標」と訳すように指定しているところもあります。

実際の仕事では、こうしたことを総合的に判断して訳語を決定する必要があります。

(第1文)


【原文】

The company seeks to achieve a rate of return in the range of forty to fifty percent (40%-50%) per month through one-day or short-term investments.

【訳例】

弊社は1日の投資または短期投資により、月あたり40%から50%(40%〜50%)の範囲の収益率を目指します。

【訳出上のポイント】

ここでのポイントはThe companyの訳語選択です。The companyはweやour companyよりも改まった言い方です。いずれも「自分の会社」という意味です。日本語訳としては「当社」、「弊社」がよく用いられます。

ここで重要なのは「当社」と「弊社」の意味をしっかり理解して用いることです。

「当社」は社内での連絡、または対等の立場の取引先に対して用いる。
「弊社」は顧客または、対等以上の立場の取引先に対して用いる。

ここでの正解は「弊社」(〇)です。原文は会社の業務案内だからです。「弊社」のほうがへりくだった言い方であり、正式な文書で用いられる表現です。

「当社」のほうがやや口語的ですので、親しくつきあっている取引先や、気心の知れた顧客に対してならよいでしょうが、ここでは「当社」(×)は不適切です。

もう1つのポイントはforty to fifty percent (40%-50%) の数値表記です。原文ではアルファベットの後に数字を括弧に入れて正確に表現しています。日本語に表現する場合、一般的には「40〜50%」のように簡略に表記することが多いのですが、ここでは不適切となります。原文は顧客の大切な資金を預かって運用する会社の業務案内です。そのため、数字は極めて重要な情報となります。会社案内は原文情報を忠実に訳しますので、なるべく意訳を避け、ここでも「40%から50%(40%〜50%)」(〇)ように、できるだけ原文に忠実に訳す必要があります。これは実際の仕事で顧客からの指示に従ったもので、ここからリライトして「40〜50%」のような簡略形にするかどうかは顧客側の最終的なリライト作業によります。

なお、原文のハイフォン(-)は範囲を表す記号ですが、日本語ではマイナス記号と混同されるおそれがあるので「〜」記号に置き換えることをお勧めします。

また、実際の仕事においてこうした数字表記法について少しでも迷った場合は、

(1)原文に忠実に訳す、
(2)顧客に問い合わせる、
(3)過去訳に同様の表記がないか確認する、

という3つの対処法があります。

(2番目の見出し)


【原文】

Investment Strategy

【訳例】

投資の戦略

【訳出上のポイント】

ここはあまり大きなポイントはありません。ただし日本語の「の」の扱いについて検討する必要があります。

具体的にはInvestment Strategyを「投資の戦略」とするか、それとも「投資戦略」とするかです。両者は大きな意味の違いはありませんが、1番目の見出しと表記を統一する必要があります。1番目の見出しの訳例は「投資の目標」でしたので、ここでは「投資戦略」(△)ではなく「投資の戦略」(〇)とするのが正解です。

なお、参考用語の中にinvestment opportunity(投資機会)がありますので、この訳語に準じて「の」を省略するという考え方もできます。その場合、1番目の見出しの訳は「投資目標」(〇)、2番目の見出しは「投資戦略」(〇)となります。

参考用語は「指定用語」とは異なり、あくまでも参考のためのものです。ここでは、2つの見出しの表現を統一すれば「の」を入れても入れなくてもどちらでもよいでしょう。

(第1文)


【原文】

To achieve the above investment objective, the company shall identify investment opportunities in Nikkei 225 Futures, and our professional staff shall exercise their expertise and experience to realize capital gains.

【訳例】

上記の投資目標を達成するため、日経平均先物における投資機会を見極め、弊社の専門スタッフが知識と経験を駆使してキャピタルゲインを実現するものとします。

【訳出上のポイント】

ここではまず、参考用語であるNikkei 225 Futures(日経平均先物)の訳語が正しいかどうかを調査する必要があります。「日経平均先物」と「日経225先物」は同じものですが、一般的には「日経225先物」という呼び名でもよく知られているからです。

Google検索によると「日経平均先物」は297万件、「日経225先物」は198万件がヒットします。また、Wikipediaによると「日経225先物取引」とあります。

また「英辞郎」でNikkei 225 Futuresを検索すると「日経225先物」、Weblio辞書では「日経225先物取引」となっています。

以上をまとめると、どれか1つが正解というわけではなさそうです。その場合、参考訳語をそのまま用いることをお勧めします。明らかな誤りでない限り参考訳語をそのまま用いるのは問題ありませんが、訳語を変更するには明確な根拠が必要だからです。

以上により、訳例では参考訳語の「日経平均先物」をそのまま採用しています。

もう1つのポイントはexercise their expertise and experience to realize capital gainsの日本語表現です。ここは翻訳者の腕の見せ所といえます。訳例では「頭から訳す」という表現を採用していますが、これが唯一の正解というわけではありません。ここでは訳語選択を含めて複数の日本語表現のバリエーションが存在するからです。

ここで誤解のないように言っておきますが、ご紹介している訳例のみが唯一絶対の正解というわけではありません。ご紹介している訳例は原文に比較的忠実に訳したものが多く、納品レベルとして通用するレベルを十分クリアしていますが、中にはあえて改良の余地を残したものもあるからです。その意味で、訳例は学習の出発点を提供するものともいえます。

訳例をあくまでも1つのreference(基準)としていただき、「よし、訳例よりもっと上手な訳を工夫してやろう」というくらいの気持ちで学習に取り組まれるとよいでしょう。

今回の課題はいかがだったでしょうか。「訳語選択」は奥の深いテーマです。ある意味、翻訳力そのものといってもよいスキルです。訳語選択の能力は、日本語力とも密接に関わってきます。

今回のような「目的」と「目標」や、「弊社」と「当社」のように、日本人ですらあいまいに使っている言葉は多数あります。翻訳の学習とは、そうした漠然とした日本語の意味を個々に吟味し、自身の日本語を再定義するプロセスともいえます。

以下に訳例をご紹介します。

訳例

投資の目標

弊社は1日の投資または短期投資により、月あたり40%から50%(40%〜50%)の範囲の収益率を目指します。

投資の戦略

上記の投資目標を達成するため、日経平均先物における投資機会を見極め、弊社の専門スタッフが知識と経験を駆使してキャピタルゲインを実現するものとします。

以下、次回の翻訳課題です。短い文ですのでぜひチャレンジしてみてください。

Q [英和課題] 以下の英文を「ですます」調で翻訳してください。

Investment Policy

In our investment, a well-balanced portfolio strategy shall be made based on the risk-return trade-off relationship considerations.

Investment Method

Appropriate investment limits shall be set according to the assessed risk level of each investment, and a general stop-loss order (loss cut) shall ensure a sufficient level of portfolio safety.

ヒント
今回の課題の続きの文です。「ですます」調で平易で読み易い訳文にまとめてください。ただし以下の訳語を必ず使用してください。



リスク・リターン、ポートフォリオ、ストップロスオーダー(ロスカット)

それでは、次回のこのコーナーでまたお会いしましょう!

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