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実践・実務翻訳のコツ(第32回)−中上級へチャレンジ!

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執筆:佐藤洋一(さとう よういち)
佐藤翻訳事務所代表
東京都出身。国際基督教大学教養学部理学科卒業後、東京工業大学大学院修士課程を修了。
在学中から、論文などの翻訳を始め、翻訳会社を経て、フリーの実務翻訳者として独立。長年にわたり翻訳学校講師も勤めている。『はじめての理系英語リーディング』(アルク)や『詳解 技術英文大全』『科学技術英語論文 英借文用例辞典』(オーム社)など、著書・訳書も多数。
Q [前回の課題] 以下の英文を「ですます」調で翻訳してください。

Investment Policy

In our investment, a well-balanced portfolio strategy shall be made based on the risk-return trade-off relationship considerations.

Investment Method

Appropriate investment limits shall be set according to the assessed risk level of each investment, and a general stop-loss order (loss cut) shall ensure a sufficient level of portfolio safety.


今回の課題は前回の課題の続きで、外資系投資運用会社の業務案内の冒頭部分からの抜粋です。今回の重要ポイントも「訳語の選択」ですが、いくつか日本語表現の工夫が必要な箇所もあります。また、今回は以下の指定用語が指示されていますので、これらの訳語は必ず使用する必要があります。

リスク、リターン、ポートフォリオ、ストップロスオーダー(ロスカット)

以下、個々の英文について、訳出上のポイントを解説します。文単位で解説します。

【原文】の赤字部分が訳出上のポイントで、【訳例】の赤字部分がそれに対応する箇所です。【訳出上のポイント】の太字部分が訳出上のポイントを上手に処理するためのテクニックです。


(1番目の見出し)


【原文】

Investment Policy

【訳例】

投資の方針

【訳出上のポイント】

ここでのポイントは日本語の訳語選択です。特にpolicyの訳し方です。一般的な英和辞書を引くと、policyの訳語として「政策、方針、方策、やり方、手段、熟慮、賢明、深慮」などが掲載されています。

まず、「政策」(×)は国や官公庁、自治体などの場合ですので、ここでは不適切なのが分かると思います。正解は「方針」(〇)です。policyは企業、組織、集団、個人などの「方針」全般を意味する単語であり、大半の文脈では「方針」で通用します。実務翻訳では「policyといえば方針」と覚えておくとよいでしょう。

なお、カタカナ語の「ポリシー」(〇)という訳語も最近は徐々に定着しつつありますので、「ポリシー」をここで訳語として採用しても間違いではありません。これはインターネット上での個人情報を保護するための規範であるprivacy policyを「プライバシーポリシー」と訳すことが多いのが影響していると考えられます。

ただし、privacy policyを日本語で「個人情報保護方針」などと呼ぶように、ここでも「実務翻訳でpolicyといえば方針」という原則は有効です。

日本語は時代によって変化します。もしかすると、10年後にはpolicyを「ポリシー」と訳すのが定訳になっているかもしれません。ですが現状でいえることは「方針」がpolicyの定訳に近いということです。

以上により、もし少しでも迷ったら「ポリシー」ではなく「方針」を採用することをお勧めします。

なお、前回の課題と表現を統一するため、「投資方針」(△)ではなく「投資方針」(〇)とします。

(第1文)


【原文】

In our investment, a well-balanced portfolio strategy shall be made based on the risk-return trade-off relationship considerations.

【訳例】

弊社では投資において、リスクとリターンのトレードオフ関係を考慮することにより、バランスの取れたポートフォリオ戦略を立てるものとします

【訳出上のポイント】

今回最大のポイントです。ここには多数の訳出上のポイントがあります。具体的にはour、shall be made、based on、trade-off relationship、そしてconsiderationsの日本語表現です。

まず、ourは前回の課題で登場したthe companyと同じ意味です。日本語訳としては「当社の」、「弊社の」がよく用いられますが、ここで「当社」と「弊社」の違いを再掲してみましょう。

「当社」は社内での連絡、または対等の立場の取引先に対して用いる。
「弊社」は顧客または、対等以上の立場の取引先に対して用いる。

ここでの正解は「弊社の」(〇)で「当社の」(×)は不適切です。ただし原文はIn our investmentの形ですので、「弊社の投資では」(〇)のような直訳ではなく、訳例ではもう一工夫して「弊社では投資において」(〇)としています。

これはこの文の内容が「他社との差別化」を図るものと考えられるからです。言い換えれば、「他社と違って弊社ではこのような方針を採用しております」というニュアンスがこのourに感じられるからです。

「投資」の意味ではinvestmentは集合的に不可算名詞で用いられます。ここでIn investment,〜と書くこともできるのですが、ここではIn our investment,〜となっています。こういう小さなニュアンスをしっかり読み取ることが大切です。

なお、1回1回の具体的な「投資取引」の場合は可算名詞で、make an investment(投資を行う)のように書きます。

もう1つのポイントはtrade-off relationshipの訳語選択です。ここはすでに経済用語として定訳になっている「トレードオフ関係」(〇)を採用すればよいのですが、きちんとこの用語の意味を理解して訳す必要があります。

「トレードオフ関係」とは「あちらを立てればこちらが立たず」という利害が相反する関係をいいます。ここでは大きなリターン(利益)を目指すと、それだけリスク(損失)も大きくなることを意味します。

最後のポイントはbased on 〜 considerationsの訳出方法です。訳例では品詞の転換を利用してconsiderations を動詞として訳すテクニックを採用しています。

通常、considerationsの名詞としての訳語は「検討事項」「考慮事項」(△)などですので、直訳では「リスクとリターンのトレードオフ関係の検討事項に基づき、バランスの取れたポートフォリオ戦略を立てるものとします」(△)となります。これは明らかに語弊のある訳文です。なぜなら読者にとってはいきなり「検討事項」と言われてもなんのことだ理解できないからです。

原文の真意は、次のように書き換えることより深く理解できるでしょう。

【原文】
In our investment, a well-balanced portfolio strategy shall be made by considering the risk-return trade-off relationship.

このように原文を書き換えることによって、原文の真意により近い自然な日本語で表現することができます。これを英文和訳における「英文英訳」のテクニックと呼びます。これは和文英訳における「和文和訳」のテクニックと対になるものです。いずれも非常に便利なテクニックですのでぜひ覚えておいてください。

なお、原文ではshall be madeと受動態になっていますが、訳例では能動態に転換する態の変換テクニックが使われていることにも注目してください。主語を目的語のように訳しています。strategy(戦略)に対応する動詞は「立てる、立案する、策定する」(〇)などがありますが、ここでは最も意味の広い「立てる」を採用しています。また、shallは「〜するものとする」(〇)がよく用いられます。

(2番目の見出し)


【原文】

Investment Method

【訳例】

投資の手法

【訳出上のポイント】

ここでのポイントはInvestment Methodの訳語選択です。「投資の手法」(〇)が正解です。「投資のやり方」(△)はやや口語的で会社の業務案内としては不適切です。「投資の方法」(△)はどちらかというとInvestment Methodology(投資の方法論)」(△)に近く、やや学術的な印象となります。

なお「投資メソッド」(△)はオリジナルの投資手法ならOKですが、直後の本文を読むかぎり一般的な投資手法ですのでここでは避けたほうがよいでしょう。

(第1文)


【原文】

Appropriate investment limits shall be set according to the assessed risk level of each investment, and a general stop-loss order (loss cut) shall ensure a sufficient level of portfolio safety.

【訳例】

評価されたリスクレベルに応じて1回の投資ごとに適切な投資上限を設定するものとし、また一般的なストップロスオーダー(ロスカット)により、ポートフォリオの安全性を十分に確保するものとします。

【訳出上のポイント】

ここでのポイントは1点のみでeachの日本語表現です。ここでは具体的に「1回の」(〇)と訳すのが正解です。「毎回の」(〇)や「それぞれの」(〇)や「各」(〇)も決して間違いではないのですが、通常の日本語で「1回の〜」と書く場面において英語ではeach〜が非常に多く用いられます。eachの訳し方のバリエーションとしてぜひ覚えておいてください。

なお、assessed risk level「評価されたリスクレベル」とは「リスク(損失額)がどれだけ大きなものかを事前に見積もっておくこと」を意味します。これはリスク評価(risk assessment)という金融関係の専門用語を由来とする訳語です。

今回の課題はいかがだったでしょうか。原文は実在する投資運用会社のものであり、AIや金融工学を駆使した最先端のシステムトレードを運用する会社です。

システムトレードとは予め組み込まれた多数の売買ルールに基づき、コンピュータが自動的にトレードを行うものです。こうしたシステムトレードの開発にあたっては、過去の株価の動きを用いて「バックテスト」と呼ばれる検証を行い、特に成績が優秀なシステムが採用されます。

もちろん、過去の相場の値動きで成績がよくても、今後もそれが通用するとは限りません。それでも総じてバックテストの成績が良かったシステムは実トレードでも成績が良いと言われています。中には月に100%という驚異的な成績を叩き出すシステムもあります。

ただしこうしたシステムにも「リスクとリターンのトレードオフ関係」があり、ハイリスクハイリターンのものもあれば、最悪の場合は1年程度で「システムの寿命」が来てしまうものがあります。コンピュータが採用する投資の売買ルールには「賞味期限」があるからです。そのため、どのようなシステムも定期的に人間が売買ルールを見直し、必要に応じて更新しなければなりません。

このあたりの関係は自動翻訳と人間の翻訳者の関係にもよく似ています。個人的には人とコンピュータは互いに補完し共存する関係であると考えています。

以下に訳例をご紹介します。

訳例

投資の方針

弊社では投資において、リスクとリターンのトレードオフ関係を考慮することにより、バランスの取れたポートフォリオ戦略を立てるものとします。

投資の手法

評価されたリスクレベルに応じて1回の投資ごとに適切な投資上限を設定するものとし、また一般的なストップロスオーダー(ロスカット)により、ポートフォリオの安全性を十分に確保するものとします。

以下、次回の翻訳課題です。短い文ですのでぜひチャレンジしてみてください。

Q [英和課題] 以下の英文を翻訳してください。ただし以下の指示に従ってください。

Your time is limited.

Stay hungry, Stay foolish!

ヒント
アップル社を創業したスティーブ・ジョブスの有名な言葉です。



以下は「伝説のスピーチ」と言われた彼の言葉です。

https://www.youtube.com/watch?v=RWsFs6yTiGQ

上記の言葉の真意を考えながら、上のスピーチをじっくり視聴してみてください。
そのうえで、”foolish”の真意を考えてください。そして、

(1)通常の直訳に近い訳文、
(2)上記の文の真意を日本語の格言調で意訳したもの、


の2種類の訳文を作成してください(複数の回答も可)。

(2)は既存の格言を利用してもよいし、自分でオリジナルの格言を作ってもOKです。「柔軟な発想」がポイントです。

それでは、次回のこのコーナーでまたお会いしましょう!

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